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【レポート】KIITO:300|FARMトークイベント|第4回 300秒プレゼンテーション交流会 福祉編「神戸市内の福祉活動とつながる」を開催しました。

2023年2月24日(金)

福祉事業所の活動紹介及び交流の機会としてトークイベントを開催しました。神戸市内で活動される福祉事業所のお三方をお招きし、300秒(5分)という限られた時間の中でプレゼンテーションを行っていただきます。その後インタビュアーの中川悠さんとクロストークを通し、実際に福祉事業所が抱えている課題や事業を取り組む中で感じていることなどを共有しながら、活動をより良くするためのディスカッションをしていきます。

まずは、東灘区に事業所を構える、社会福祉法人木の芽福祉会「御影倶楽部」主任の船橋知恵さんからです。「本当は利用者のみんなと一緒に来たかったのですが、そういうわけにもいかないので、映像に映っている利用者の姿をぜひ見てあげてください。」と映像を上映しながらプレゼンテーションいただきました。

社会福祉法人木の芽福祉会「御影倶楽部」・船橋知恵

私が御影倶楽部に入所したのは11年前でした。当時から紙すきはしていたのですがなかなか売れず、つくった紙が積みあがっていくばかりでした。売れずに日に焼けて黄ばんでいく紙たちをこのまま処分するのはもったいないということで、アーティストさんやお店に配るようにしたんです。そうすると不思議と、使ってくれる場所も増えて少しずつですが売り上げが出るようになってきました。

御影倶楽部でつくっている紙は100%白鶴酒造さんの酒パックで出来ています。いただいた紙パックをちぎって、すいて、また紙にする。利用者のみんなと紙づくりをしていく中、早い段階で綺麗な紙をつくることよりも色々なユニークな紙をつくることに方向転換しました。例えば、六甲山の間伐材を混ぜた紙など、紙に色々な素材を混ぜた新しい紙をつくっています。

御影倶楽部の特徴は紙すきですが、それだけではなく時刻表を覚えるのが得意な利用者や新聞の取材に答えるのが上手な利用者など、様々な個性豊かな利用者に囲まれています。そういう風に自分の得意なことをしていると仕事をしているうちに元気になってくるし、キラキラしてくるし、そういう場所って素敵だなと感じています。私自身もそういう地域で暮らしていきたいと思っているからこそ、利用者がいきいきと活動できるように支えていくことが仕事だと思っています。紙のことで何か一緒に面白い事をしたいという方がいらっしゃれば、ぜひご一緒しましょう。

ぴったり5分でプレゼンテーションを終えた船橋さんに会場から拍手が送られます。
続いては、長田区で久遠チョコレートをはじめ、様々な福祉や介護の事業を展開される株式会社PLASTの理学療法士、喜多一馬さんです。

株式会社PLAST・喜多一馬

PLASTの事業の進め方は、まず目の前にいる人のことを考えて次へ、次へと動いていくところにあると思います。元々は高齢者のリハビリをするところから始まったのですが、進めていく中で「もっと予防や看護のことが必要なんじゃないか」「もっと重度の障害を持った方が通えるような場所が必要なんじゃないか」といった形で事業が大きくなってきました。主に長田区で展開している私たちは商店街の中にいくつか事業を行っており、それぞれの場所といつでも連携が取れるというところも珍しいところかなと思います。

そのなかで、重症心身障害の子どもに向けた支援施設の「ヒミツキチ」という場所の運営をしています。就労支援事業B型の勉強をしていくと、やはり課題にあるのは工賃の低さでした。そこで出会ったのが久遠チョコレートプロジェクトです。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、高い工賃を支払える仕組みができていることと、失敗しても溶かしてまた作り直せるというところです。美味しいチョコレートができるのですが、私たちがプレゼンテーションで本当に伝えたいのはスタッフのみんながとても楽しそうに働かれているということです。

私たちが大事にしていることは、利用者さんを型にハメるのではなく、利用者さんがハマれる何かを見つけよう。そのために実験的に取り組んでいこう!ということです。チョコレートの事業をしていく中で、絵を描くことが得意な利用者さんがいました。その利用者さんが活躍できることとして、今実験的に行っているのが「神戸フォントプロジェクト」です。描いてもらった数字やアートを文字にしてカレンダーをつくっています。その他にも様々な方法を模索しながら障害者福祉の視点で神戸を盛り上げる活動をできればと思っています。

喜多さんのプレゼンテーションも5分ぴったりで終了しました。

そして、最後のプレゼンテーターである、つむぐ学舎 株式会社「こづかやまlaboratory」代表兼施設管理者の山﨑慎也さんにマイクが渡されます。

つむぐ学舎 株式会社「こづかやまlaboratory」・山﨑慎也

一昨年の9月に開設したまだ新しい事業所ですが、スタッフはそれぞれ長年福祉事業に関わってきた者ばかりで、これまでにない新しいことができればという思いで立ち上げました。コンセプトは「創造する福祉を目指して」。マニュアル化が進む今の福祉をただ踏襲するのではなく、個々に寄り添い支援するなかで、それぞれの活動の先に新しい福祉が生まれることを目指して一緒に悩み、模索できればと考えています。利用者に限らず、スタッフも共に持っている「何か」を見つけて活かせればと思います。

生活介護の事業所で重度障害があり、日常生活を送るのが難しい方もいます。そういった方たちは、リスクマネジメントのもと「こういう作業が適している」と管理する側からに型にハメられることも多く、個別援助を謳いながらも集団援助が優先されていることに、違和感を覚えていました。そこで、私たちの事業所は個別支援を優先し集団援助に繋げることを目的としています。アートの活動も積極的に行っています。アート展や物販を行うほか、無印良品の依頼を受け、壁に絵を描く仕事などにも取り組むことが出来ました。

お三方のプレゼンテーションが終わり「クロストークに入っていく前に、私がどういったことをしているのか知ってもらうためにも少し自己紹介をさせてください。」とインタビュアーの中川さんからのお話に移ります。

NPO法人チュラキューブ/株式会社GIVE&GIFT・中川悠

NPO法人チュラキューブと株式会社GIVE&GIFTという2つの団体で活動していて、主な拠点は大阪になります。母型の実家が精神病院で、父親が義足の研究員をしていたこともあり精神障害や身体障害を持った方と触れ合う機会もありました。子どもの頃から障害というものが身近にあって、いつ自分や友達の心が病んでしまうか、身体が不自由になってしまうのかわからないということも思っていました。そんな私ですが、20代のころは雑誌の編集者として仕事をしていました。その時に身に付けた編集や企画、デザインの知識が今も生きています。

会社を立ち上げたのが29歳の時、立ち上げたばかりの時に、叔父から、運営している施設のパンが売れないから助けてほしいと連絡を受けたことがあります。福祉の事業って助成金制度がしっかりとしているので、そのお金で急速冷凍機を購入し、冷凍のロールケーキを販売しました。冷凍なので破棄をしなくていいし、ロスも少ない。作る工程も学生さんにインターンシップに来てもらったり、リーマンショックで仕事を失ったデザイナーさんにデザインをお願いするなど工夫をし、当時ニュースになったり少し注目を浴びたんです。他にもお墓参りの代行サービスや就労支援施設の缶バッチの制作事業の立ち上げなど、様々な福祉事業のビジネスモデルのサポートを行ってきました。

2018年ごろより京都市より、伝統工芸の後継者不足に困っているという相談を受けるようになりました。先行きが不安な中、どれだけ好条件でもなかなか人が集まらなかったんですよね。そこで、障害のある方のお仕事として、ろうそくの絵付けや西陣織の作業を請け負うことを提案しました。事業所の方が多いので分かる方もいらっしゃると思いますが利用者の工賃を上げるのってなかなか難しいことなんです。そんな中でも、きちんと就職してお仕事を経験する中で前向きに人生が変わった方がたくさんいらっしゃることを実感しています。

そして、いまは「ユリニク」という活動をしています。ユニバーサル・リクルーティングの略です。コロナをきっかけに、テレワークが増え障害者をケアするスタッフがいなかったり、そもそも軽作業自体がすくなくなったりと障害者が働く環境が激減しました。そこで、在籍出向という形で企業と契約した障害者が子ども食堂や地域のNPO、伝統工芸産業など、なかなか人件費を払えないけど無くすわけにはいかない活動に対して働きに出てもらうというシステムを運用しています。障害のある人の仕事を新しくつくるのはなかなか難しいです。そこで、これまでの仕事の中でも障害者の方が関われる可能性をつくっていくということに取り組んでいます。今は、大阪住吉区と平野区で地域の食堂を運営しています。12名の障害を持つ方が、時給は1,050円という好条件で働いてもらっています。担い手を求める地域食堂や縮小産業と障害者雇用をつなぐことで、win-winな関係をつくりあげることを目指しています。

中川さんの活動紹介終了後トークセッションに移ります。中川さんより「今までのプレゼンテーションを聞く中で、もっと具体的な工賃や利用者の事を聞いてみたくなりました」と前方のスライドに5つの質問が映し出されます。

まず一つ目の質問、利用者の工賃について「工賃を上げるためのポイントは?」の質問に喜多さんが答えます。

喜多:久遠チョコレートの中でもいくつか仕事があって、それにより工賃が決まります。最低の賃金は決めているんですが、「これができたら何円アップね」と工賃が挙がっていくシステムです。とはいえ、作業がなかなかできない利用者もいらっしゃるのでフォントなど様々なチャレンジする機会をつくっています。フォントを使ってくれる企業さんも探して、それを見つけていくのは本当に社長の腕ですね。

中川:なるほど。その売り先を見つけること、かなり大変ですよね。御影倶楽部の船橋さんは工賃を上げるために、売り先を増やすどういう工夫をしていますか?

船橋:工賃を上げるのは難しいですよね。私たちも本当はもっと上げたいと思っています。利用者たちが水に手を付けながら頑張ってつくった紙にいくらの値段をつけるのかもかなり意識をしていて、リサーチなども欠かさないようにしています。でも、一番は紙すきのことや御影倶楽部を知ってもらえること、マメに人間関係をつくっていくことを大切にしています。支援学校や放課後デイサービスに出前授業に行ったり、これから関わりのある可能性がある人たちに認知してもらうところからはじめていますね。

中川:みなさん外にでていくようにされていて、福祉の業界ではなかなか他の企業や団体とつながることが苦手とされる方も多い中で、素晴らしいです。次は山﨑さんに質問ですが、アートの事業される中で、どういう風に利用者の才能を引き出し、高め、押し進めていくのか聞かせてください。

山﨑:絵を描いてもらう時に、最初「お母さんの顔を描いてください」ってお願いをしてみます。さらに、画材もボールペンやクレヨン、色鉛筆など可能な限り色んな種類のものを準備してお願いします。はじめは、顔から手が生えたように絵を描いておられた方が、ある時ピアノの絵を描いてとお願いすると、すごく繊細でリアルな絵が描けることがわかりました。それからいろんな物を描くうちに、人物画においても、きちんと肩から手の生えた絵が描けるようになったりと進化します。いまでは八つ切りサイズの絵が30,000円で売れたりします。私たちの役割は、利用者が持っている才能をどう掘り起こし、発信したり、魅せていくかというところにあるなと感じますね。

中川:お三方に共通するのは、利用者がどういう風に活躍できるか、個性を活かすことができるかをプロデュースする力だなと感じました。まだかたちになっていないものたちをどうプロデュースしたり発信したりするのですか?

山﨑:利用者を信じて描いてもらうこと。ですかね。画材を渡して、最初クレヨンで一生懸命に描いていた絵を絵具で塗りつぶしてしまう。みたいなこともよくあります。けれどその過程も作品にするなど考えています。

喜多:まずは利用者の才能をどう発見するかだと思います。発信について重要なのは、やっぱりそれが語れるかどうか、そのうえで共感してくるフォロワーをどれだけつくれるかだと思います。

船橋:すごい才能を持っている方でも御影倶楽部ではうまく工賃になるお仕事につなげられていないこともあるのは悔しいところです。それぞれにハッピーなことはあるので、御影倶楽部と関わることでその人にとってもよかった。と感じてもらえるようになればいいなと思っています。

予定していた30分のクロストークも終わりの時間が近づいてきて、中川さんからまとめのコメントに入ります。

もちろん工賃のことも大切。大切なのですが、工賃だけじゃなくて企業やお店など外とどういう風につながっていくかということが大切に感じます。目の前の利用者がいる中で、なかなか外とつながっていく活動をすることは大変です。それでも前を向いて取り組まれていること素晴らしいなと感じました。

よく利用者の自立のために工賃を上げるべきだという話がでますが、実は工賃をあげるだけではダメで、その先の「工賃があがるとどうなるの?」「工賃があがってどういう風に成長していきたいの?と」いうところまで見据えないと先につながらないと思います。工賃アップがゴールじゃなくて、その人の魅力にどういう風に発揮できるか、声をかけて、環境をつくっていくこと。そこからどういう風に外とつながっていくか。それがやりがいや工賃につながる方が健全ですよね。色々な福祉の活動が起きている中で、もっとそういった考え方がメジャーになっていけばいいなと思っています。

予定していた1時間30分があっという間に過ぎ交流会に移ります。交流会では登壇者の方、参加者の方をまじえながら現場での悩みや活動の想いなどそれぞれ共有する姿がみられ、今回のイベントを通して、福祉の活動を知り、つながることができる機会になったのではないでしょうか。

制作:ふくしワザ編集部