デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)では、神戸市内の障害福祉サービス事業所(以下、「事業所」)をカタログのように閲覧でき、新しい仕事やつながりが生まれることを目的としたウェブサイト「ふくしワザ」の運営サポートを継続的に行っています。
「福祉」という言葉には、「誰もが安心して暮らしていける社会や地域をつくっていくこと」という意味があります。お互いが違いを認め合いながら、生き生きと働き暮らしていくために、また「支援する/される」の関係を超えて共につくる場はどのようにデザインできるのか―ひとりひとりの声を大切にする対話の場にあるのではないでしょうか。
「福祉」を特別な領域ではなく、自分自身や身近な人の暮らしと地続きのもの、わたしごととして福祉に関わることについて考えるイベントを、「一般社団法人ぼくみん」の今津新之助さん、大澤健さんと「designと」の田中悠介さんをゲストにお招きして開催しました。


ゲストによるおはなし
前半は、ゲストによるおはなし。
商品制作のプロセスや活動に関わる人々といった、周りを取り巻く「関わりのデザイン」に着目し、領域や分野を超えて多様な人々が関わる場づくりを行う、一般社団法人ぼくみん。ぼくみんの大澤さんからおはなしが始まりました。
大澤健さん
大澤さんは、参加者同士の出会いやつながりを大事にされており、まずはグループワークを実施。
「あなたは何者ですか?」
3人1組で5分間。所属や肩書きではなく、自分自身の言葉で自分について語る問いからスタートしました。この導入自体が、「ひとりひとりの声を活かす場」を体現しています。


「SOCIAL WORKERS LAB(ソーシャルワーカーズラボ)」、福祉とデザインの関係について
大澤さんは、ぼくみんの前身である「SOCIAL WORKERS LAB」のキックオフイベントに一人の参加者として関わり、そこから6年ほど活動を続けてこられました。
「SOCIAL WORKERS LAB」は、厚生労働省の「介護のしごと魅力発信等事業」をきっかけに設立され、「福祉」に興味や関心がないと思っている学生を含めた若者世代が「福祉」と出会うきっかけをつくってきました。
設立時期がちょうどコロナ禍と重なったため、オンラインをベースに多様なテーマで活動を重ね、「福祉をひらく」「他の領域と重ね合わせる」「福祉にいろんなものを含める」といった、多様な扱い方を試みてこられました。
その上で、「人がそれを運ぶことが、ぼくたちにとって大事」だと語ります。企画やタイトルの工夫だけでなく「人が運ぶ」ことが活動のコアにあり、知人や友人など誰かから声をかけられて参加した人が多いと説明されました。
なぜこの活動をやっているのかと言えば、やはり福祉の人材不足が背景にはあります。でもそうすると、どうやって関心を持ってもらって、その担い手を確保していくのかといった話になっていくんですけど、実は「人材不足」って一つの症状でしかないように思っているんです。
あえて病気に例えるなら、いま起きているのは、社会の慢性疾患・生活習慣病であって、“福祉の人材不足’’だけでは捉えきれないもの。そういう状況のなかで、ぼくみんという法人、ぼくたちの活動があるのかなと思っています。
ぼくみんでは、福祉とデザインを明確に定義してはいないが、定義が曖昧だからこそ両者が伸縮しながら関わり合うことができるのかもしれず、その両者の関わりしろが大切だと思っていると述べられました。
事例1:TAKASHIMA BASE
滋賀県高島市(人口約45,000人・高齢化率38%)にある「TAKASHIMA BASE」は、2023年春、地域に関わるさまざまな人々が関わる複合型文化拠点としてオープンしました。ぼくみんが高島市に関わるようになったきっかけは、福祉分野で働く人が必要だという地域の声でしたが、関係者で悶々としながら対話を重ね、さまざまな観点を共有し、「福祉にとどめるのではなく、まちにひらいてやっていく」ことに着地。あえて福祉という言葉を使わない「未来のジャム」というイベントを企画し、領域・立場・世代を超えた出会いと対話の場をつくり出されました。JR湖西線新旭駅前の空き家を改修し「TAKASHIMA BASE」と名付け、現在はカフェや本屋、印刷工房などを設けて運営。福祉が背景にあることを知らなくても関われる場、そのような形が重要だと話されました。

事例2:ふくしデザインゼミ
東京の社会福祉法人 武蔵野会(職員数約1,200人)と立ち上げた「ふくしデザインゼミ」は、分野の垣根を越えた学びの場。図鑑制作や展示会を通じて仲間をつくるプロジェクトは2022年から24年までの3年間続き、今は別のカタチで展開を検討しているとのこと。
大澤さんは、「岬(ミサキ)」という概念を用いて「ふくしデザインゼミ」について語られ、異なる領域や人々が出会ったり交差したりする中間的な場をつくることが、一人一人の声を生かすために必要だと説明されました。

事例3:社会福祉法人 京都福祉サービス協会での対話型プロジェクト
対話や関わり合いの場づくりを法人内で実践するプロジェクトを3年にわたって伴走されています。法人の方向性を共有し、効果的な事業活動を行なっていくためにも、対話できる組織文化をつくっていくことが必要なのではないか、という考えをもって活動されています。
今津新之助さん
今津さんは、「福祉にもデザインにも関わってこなかった」と述べつつも、自身の人生経験をもとに「自分ごととしての福祉」について語られました。自身の病気に友人が気遣ってくれていたことも実は福祉だったかもしれない、という気づきを後から得たことなど、福祉の概念が広く日常に存在することについて触れられました。


デザインとの関わりとして、外部のクリエイターに依頼して、ご自身の沖縄での仕事をまとめる社内報を制作したときに、事業に対する周囲からの見られ方が大きく変わった経験について紹介。デザインの力を強く実感した経験から、ローカルで活動したり商売をしている人々がデザインを取り入れることが地域の力になると考え、デザインの力を活かして障害者就労支援施設などと協働してこられました。
福祉×デザイン×地域になってきたのかなというふうに思っていて。地域って何かって言ったら、ぼくたちが生きている場所ですね。そういう自分たちの足場を守りつくっていくために何をしたらいいんだろうと思って、「SOCIAL WORKERS LAB」がはじまりました。福祉そのものがこのままではいけない、ぼくたちと福祉との関係のあり方も変わっていく必要があると言っているなかで、さまざまなプロジェクトが始まってきました。
今津さんが語る「福祉とデザインに関係ない人はいない」という言葉には重みがあり、会場に強い余韻を残しました。
田中悠介さん
田中さんは、デザイナーとして企業や団体のグラフィックデザインやブランディングを中心に、様々な分野で活動されています。田中さんの考えるデザインとは、「商品やサービスと人との間にある“適切な関係性”をつくること」。自分たちにとってすごくいいと思えるような社会に近づくデザインをしたいと思いながら日々仕事をされており、それは福祉においても同様であると話されました。
特に印象的だったのは、福祉の見せ方について。「事業所で」などの枕詞を外すことで課題がクリアになり、「福祉だから難しい」という思い込みを取り除くことができると語ります。
例で示されたのが、事業所で作るお菓子や雑貨などの商品、企業等から受ける清掃や梱包作業といった作業です。これら商品や作業の売り上げは、事業所等の利用者さんへ仕事の対価として支払われるため商品・作業の販路拡大、売り上げ(=工賃)向上は、事業所の課題の一つです。これらの「商品」、や「サービス」をどうやって社会に知ってもらうか、値段をいくらに設定するのか、どうやってより良いものにしていくか、利用者がつくりたい・やりたいことと一致するのか…などの課題と向き合うときに役立つヒントをいただきました。
福祉に限らず、やはり全てのもの事にはいろんなバックグラウンドがあって、それが何らかハンデになるようなこともあれば長所になるようなこともある中で、それも含めて個性だって考えた時に、それをいかに武器にするというか、していけたらなと思っていて。
こんなすごい商品なんですっていうんじゃなくて、いかに相手にすごいですねと思わせるかがすごく大事だなと。実はこういうものなんですみたいな、それぐらいで十分なのかなっていうふうに思います。
また、担当いただいた本イベントのビジュアルについても、「わたし」「ふくし」「デザイン」という3つの要素を並列に配置し、それぞれ個性を持つ文字が全体として調和している設計が「ひとりひとりの声」を表現していることについて説明されました。


みんなの意見を入れながら方向性を探っていく、ビジュアルの裏に想いを込めるぐらいのさじ加減に留めるように考えてました。これって福祉側の視点からすると、福祉を他人事と思わないために作っているわけですけど、それは福祉とデザインの関係性の話に置き換えた、入り口をちょっとずらしたような感じだと思ってます。
ふくしデザインゼミ・秋田での実践
ふくしデザインゼミは、「トークイベントだけでは広く届いても深く刺さらない」という問題意識から、福祉に興味がある学生とデザインを学ぶ学生が少人数で実践的に学ぶ場として、田中さん自身が企画を立ち上げられました。
ゼミでは、1年目に「福祉に関わる人図鑑」を作成し、2年目には障害福祉サービスの現場に入り課題に向き合う形に発展。高島を拠点とする社会福祉法人ゆたか会での“福祉施設を地域にひらくレシピ”の制作など実践的な取り組みを行っています。
ゼミを通じて、福祉とデザインを分けることが本質と離れているのではないかと考えるようになったそうで、福祉の現場に入る時ほどデザインの観点が必要で、アウトプットを考える時ほど福祉の観点が必要、という相互浸透の重要性についてもお話いただきました。
秋田県では、「秋田からワクワクする未来をつくっていこう」をコンセプトに掲げて活動しているコミュニティ「AKITA”KARA”」の立ち上げに携わり、月に1度秋田に通いながら、イベントやプロジェクトの企画などを通じて、みんながワクワクすることにチャレンジしていく土壌を耕す活動を展開されています。 初期には、「ふくしデザインゼミ」を展開させた「あきたデザインゼミ」を実施し『みんなでつくる秋田図鑑』を制作。最近では飲食店営業も行うコミュニティスペース「〜(から)」や、本屋やシェアオフィス兼住居の機能を持つ「LIFE〜WORK(ライフからワーク)」のスペース整備へと活動は次々に発展し、「起業」という言葉はあえて使わず、結果的に独立する人がどんどん生まれる環境を育んできています。普段から「前提条件を疑う」「越境する」「視点を切り替える」「余白をつくる」という姿勢を大切にしており、本質を隠したり、入り口を少しずらすアプローチが秋田でも功を奏していると総括し、田中さんの活動紹介が終了しました。
座談会:参加者の声とゲストの考え
後半は、参加者も交えた座談会形式へ。
まさに本イベントのビジュアルデザインのような円になって座ることで、立場や肩書きを超えた、対話が生まれていきました。


参加者からの質問1:「活動を続けるための資金をどう生み出しているか」
今津さんから、「福祉の担い手不足は、私たちみんなにとって切実な問題である」という視点が示されました。福祉従事者が働き続けられる環境づくりは、その従事者が働く法人はもちろん、地域や社会の課題でもあり、それを解決していくためにそれぞれの立場で考え、対話し、行動に移していく必要があるのではないか、と回答されました。
参加者からの質問2:「福祉×デザインの分野で活動をしていきたいが、就職活動でそのような企業がみえてこない」
インクルーシブデザインを研究する建築専攻の学生から切実な質問が提示されました。
田中さんは、「自ら場を作るか、そのようなことを実践している人の扉を叩きに行くしかない」と率直に答え、教育側の問題も含めて既存の選択肢の少なさやその厳しさを認めた一方で、「志を持ち続けることで、いつかそういうことをやるチャンスが巡ってくる」とコメント。独立も最初から目指したわけではなかったというご自身の経験から回答されました。
今津さんは、「障害を含めた自らの個性を活かせる場があるはず」「ユニバーサルデザインや共生の観点から、ご自身の身体性や経験がきっと武器になる」と述べ、建築を学ぶなかで獲得したデザイン思考や技術はさまざまな場で活かせるのではないか、と励まされました。
また、事業所で働く参加者の方より、福祉関係者だけで集まって会議することの限界に気づかされた、外に出てみるアクションの重要性を実感したとの感想が共有されました。
参加しているみなさんの声で共通していたのは、「既存の枠組みへの違和感」や「もっと自由に福祉に関わりたいという思い」。それに対し、ゲストの「正解を提示するのではなく、問いを開いたまま真摯に返していく姿勢」が印象的でした。


まとめ
本イベントを通して見えてきたのは、福祉を「理解する対象」としてではなく、「関係をつくるプロセス」そのものとして捉える視点でした。福祉は特別なものではなく、すでに日常の中にあるものです。その関係をどう編み直すか。そこにデザインの視点や、お互いの声を聞きあえる場のあり方、対話のプロセスが深く関わっていることを確認する場となりました。
このイベントを機に、参加いただいた皆様を始め、事業所や企業の方同士が繋がり、より良い発展に繋がれば幸いです。
「ふくしワザ」は、神戸の福祉事業所の様々なつながりの実現を目指しています。事業所の方も、企業の方も、是非ご活用ください。